だれが駒鳥を

日本では『パタリロ』で有名になった “Who Killed Cock Robin” は、日本のミステリ・ファンの間では遅くとも1950年代から知られていたと考えられる。
なぜなら同じマザー・グースにちなんだ作品が、この時期にハヤカワ・ポケットミステリのシリーズから刊行されているからである。たとえば54年のエラリー・クイーン『靴に棲む老婆』(原作刊行は1943年、以下同様)と55年のS・S・ヴァン=ダイン『僧正殺人事件』(1929年)である。これ以前にも江戸川乱歩によるヴァン=ダイン紹介に刺激され、横溝正史が戦後すぐ童謡に乗って進行する連続殺人事件の小説を書いている(『本陣殺人事件』1946年)。マザー・グース正編にのっとった作品には、他にハリントン・ヘクスト『誰が駒鳥を殺したか?』(1924)、フィリップ・マクドナルド『鑢』(1924)、エリザベス・フェラーズ『私が見たと蠅は言う』(1945)などがあるけれども、これらの翻訳は少し後になる。
ところでこのマザー・グースはもともとシャルル・ペローが編んだ『マ・メール・ロワ』(モーリス・ラヴェルの組曲の題材として有名である)に由来するという。
「『マザー・グース』(ガチョウ婆さん)という呼称は、もともとは同じ意味のフランス語『マ・メール・ロワ』(Ma Mère l’Oye) の訳語であったと考えられている。1729年、フランスの著作家シャルル・ペローの童話集『昔ばなし(フランス語版)』(1697年)がロバート・サンバーによって英訳されイギリスに紹介されたが、この本の口絵では『コント・ド・マ・メール・ロワ』(ガチョウ母さんのお話)という文字が、壁にかかった額のようなものの中に書かれていた(図)。英訳ではこの部分を『マザー・グースィズ・テイルズ』(Mother Goose’s Tales) とした上で本の副題として採用しており、後には本のタイトルにも使われている。これが英語圏における『マザー・グース』という言葉の初出であった。」(Wikipedia日本語版, マザーグース、図はリンク先参照)。
マザー・グースといえばアングロサクソン、という日本での通念は、パタリロ以前乱歩以降に形成されたと考えられる。その一方でペローの民話収集の業績もよく知られているのだから、ことマザー・グースに関する日本におけるバイアスは、ミステリ経由の周知という経緯によるものなのかもしれない。

【付記】 ラヴェルのオーケストラ編曲版「妖精の園」を聴きながら。
【訂正】 「本陣殺人事件」が童謡に乗って進行する連続殺人の物語だという指摘は誤りだった。大昔に読んだため、「獄門島」「八つ墓村」の設定が入り混じってしまった。正しくは「八つ墓村」(1949-50年)です。ごめんなさい。

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