遠いー近い

トリスタン第 2 幕、灯が消され、待ちわびるイゾルデのもとに駆けつけたトリスタンが、イゾルデとともに歌う歓喜(それはたえず死と隣り合わせになっている)の二重唱のなかに、近さと遠さに触れる箇所がある。

ISOLDE イゾルデ
Wie lange fern! なんて長く遠いの
Wie fern so lang! なんて遠いのでしょう、こんなに長く
TRISTAN トリスタン
Wie weit so nah! なんと離れていることだろう、こんなに近く
So nah wie weit! こんなに近く、なんと離れていることか
ISOLDE イゾルデ
O Freundesfeindin ああ、かたき
Böse Ferne! 憎らしい遠さ!
Träger Zeiten 怠惰な時の
Zögernde Länge! ためらう長さ!
TRISTAN トリスタン
O Weit’ und Nähe, おお、隔たりと近さ、
hart entzweite! 厳しく分け隔てられたもの!
Hölde Nähe! 愛らしい近さ!
Ode Weite! 荒涼とした隔たり!

この箇所はわたしに、ツェランの「ワインと忘却のときに Bei Wein und Verlorenheit」の次の一節を想起させる。

Bei Wein und Verlorenheit, bei
beider Neige:

ich ritt durch den Schnee, hörst du,
ich ritt Gott in die Ferne – die Nähe, er sang,
es war
unser letzter Ritt über
die Menschen-Hürden.

勝手な連想に過ぎないが、ここでのふたりの最後の騎行(遠く―近く、神に乗って駆ける)から振り返って冒頭の bei beider Neige を読みなおすと、トリスタンとイゾルデの秘められた愛を顕在化させるあの秘薬を飲み干すときの、死によって結ばれたふたりのすがたを髣髴する。

おくればせながら、08年、ニューヨーク・メトロポリタン・オペラの優れたプロダクションで、「トリスタンとイゾルデ」を視聴した。
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