「雪の上の足跡」について

ニコラス・ブレイクとウラジーミル・ナボコフの関連について述べた先のエントリーで、うっかり書き落としてしまったことがある。『死の殻』(1936)と、カーター・ディクスン『白い僧院の殺人』(1934)との関連についてである。

ブレイクが「自宅の屋根の修理費を捻出するため」(創元推理文庫『死の殻』の、大山誠一郎氏による非常に優れた「訳者あとがき」による)、『証拠の問題』を書いたのは1935年のことである。一方カーター・ディクスンの雪の上の足跡を主題とする密室物の傑作『白い僧院の殺人』は1934年に出ている。ニコラス・ブレイク(セシル・デイ・ルイス)が屋根の修復のために、当時のミステリのいくつかを読んだことは想像に難くない。『白い僧院の殺人』の足跡トリックはあまりに有名なので(「後向きの足跡の事件」ではけっしてない)、ここではあえて書かないけれども、よく似た設定で異なる物語を書いてみせようというデイ・ルイスの意気込みを想像するのは間違いだろうか?

カーター・ディクスンの作品の方は、トリックはともかく作品としてはまったくおもしろくないので、ナボコフが一顧だにしなかったことは確実である(キンボートの810行へのコメンタリーにおける “dog-eared paperback mystery stories” 参照)。ただ、ディクスンからデイ・ルイスへ、デイ・ルイスからナボコフへ、というこの「可能性」(まさに『青白い炎』830行の“Sybil, it is” =possibilities である)は興味深い「偶然」であると思う。

 

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