Dulle Griet

ピーテル・ブリューゲル(1525年 – 1569年)の油彩“Dulle Griet”(1562年作、マイヤー・ファン・デン・ベルフ美術館所蔵)のタイトルについて、日本語版Wikipediaの「悪女フリート」の項は次のように指摘している。

「日本では『狂女フリート』『気違いグレーテ』とも呼ばれるが、ベルギーの民族学者ヤン・グラウルズによるとdulle は、「狂気」「気違い」(mad, crazy) という意味ではなく、「激怒した」「立腹した」(wrathful, angry, hot-tempered)という意味だとしている。さらに16世紀では「意地の悪い女」「がみがみ怒る女」への蔑視語として Dulle Griet が使われていたことがわかった。現在でも、南ネーデルランド地方では、悪いフリートというと「悪女」の代名詞となっているという。」

この指摘がおそらく正しいのだが、本作のタイトルは日本語の観光ガイドやネット上の美術作品解説などでは依然として「狂女」とされることが多い(英語でも“Mad Meg”と称される場合がある)。これは dul という古いフラマン語が今では使われていないため、現代フラマン語(あるいはオランダ語)の dol(気の狂った、錯乱した;愚かな、ばかげた)と同義に解されがちであることに由来する。しかし、オランダ語版Wikipedia の“Dulle Griet”には次の記述がある。

“De inscriptie dul op de ondertekening van het paneel, toont aan dat de titel afkomstig is van Bruegel zelf. Dul is niet hetzelfde als dol, dat dom, gek of dwaas wil zeggen. Dul betekent boos, woest, razend.” (パネルの署名の上の dul という題辞は、タイトルがブリューゲル自身のものであることを示している。dul は dom(愚かな)、gek(気の狂った;愚かな)、dwaas(愚かな)であることを言わんとする dol(気の狂った;愚かな)と同義ではない。dul が意味するのは boos(腹を立てた、不機嫌な;悪意に満ちた、意地の悪い;邪悪な)、woest(荒れ果てた;荒い、激しい;激怒した)、razend(激怒した)である)

じっさい地獄の前での略奪を描いた本作中央にいる武装した女は、狂っているどころか沈着冷静に見える。荒ぶる女フリートとするのが妥当であろう。

注 オランダ語の語義は『講談社オランダ語辞典』(1994年)による。

カテゴリー: 美術   パーマリンク

コメントは受け付けていません。