モンロー・ビアズリー「視覚芸術における再現」(1958)

『分析美学基本論文集』(西村清和編・監訳)がついに出た。アーサー・ダントー「アートワールド」、ジョージ・ディッキー「芸術とは何か―制度的分析」、フランク・シブリー「美的概念」といった現代美学・芸術理論の基本文献が日本語で読めるようになった。

視覚芸術に関する論文では、モンロー・ビアズリー「視覚芸術における再現」が収録されている(彼の主著『美学』第6章)。ビアズリーは領域を絵画に限定して、「再現」という用語の定義から出発し(「描写すること depict」と「肖像すること portray」の区別は特に重要である)、視覚的デザインの「主題」が何を意味するのかを明確にする。彼が問題にしようとするのは、視覚的デザイン(それ自体形式上の統一と質を持っている)と主題の間に結びつきはあるか、あるとしたらその結びつきはどのように評価されるかということである。

視覚的デザインとその主題との間に結びつきはない、あるいは結びつきを認めなくてもよいとする立場を、ビアズリーは「発散理論 Divergence-Theory」と呼ぶ。この立場はそもそも印象主義とポスト印象主義を擁護する文脈で唱えられたもので、絵画を主題(何を再現しようとしているのか)から切り離して、視覚的デザインの形式上の統一と質において捉えようとする。一方ビアズリーがとるのは「融合理論 Fusion Theory」である。すなわち「再現された(represented)(描写された depicted)ものとしての主題の質がデザインによって現に提示される(presented)時に、デザインと主題とは整合的である」(p. 225)。著者はこうして主題の現示的等価物(presentational equivalents)という概念を導入する。

基本概念の定義に際していわゆる「分析的」手法が導入されはするが、以上の概略だけからも明瞭なように、彼のアプローチはルネサンス、バロックから古典期の絵画とむしろ親和的で、具体的に言及される作品もこの時期のものが多い。「分析美学」などというとつい敬遠していまうという向きに、「現代美学」の明快な議論をまとめて読むよい機会ですよといって薦めたい本である。著者の『美学』の全訳も待たれる。できればRobert Hopkins “Picture, Image, and Experience” のそれも。

 

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