中平康『その壁を砕け』

中平康『その壁を砕け』(1959)もかなりおもしろい映画だ。今日、神保町シアターで見た(特集「恋する女優 芦川いづみ」)。
殺人の冤罪で起訴されてしまう主人公の男のフィアンセ役を、芦川がたまらなく可憐に演じている(相手役の主人公は小高雄二。本日併映された鈴木清順によるまさかの “スキヤキウェスタン”『散弾銃(ショットガン)の男』(1961)では、二谷英明の好敵手)。
芦田伸介演じる弁護士も、依頼に来た芦川が恋人の無罪を確信しているのを見て、すぐに依頼を受け入れる。宜なるかな。
それにしても、この時代の映画は、国境や言語文化の壁を越えてある共通の変化をとげようとしている。本作品では、小高が芦川の待つ新潟に向け、一路バンを走らせるシークエンスの躍動に、あまりに陳腐な感想だが、ヌーベルバーグを見ないわけにいかない。疾走する主役の車のフロントガラス越しに流れる景色かと思っていると、実は先導車上にあるカメラによる映像で、カメラがぐるっと180度回転すると、ワンショットで正面から運転する男の姿を捉える。また同じ場面の別のショットは、車の後方から対向車を写しているふりをして、実は後続車からのものであり、カメラが引くと男の車のリアウィンドウが映る。片側一車線の悪路周辺に展開する無愛想な風景の中をただ疾走する車を、いろんなアングルから捉えるショット群は鮮度がよく、爽快だ。
後半の現場検証のやり直しや、そこで明らかになる村の家族制度の旧弊さをめぐる描写はたしかに古めかしい。しかし、冒頭の車の疾走だけでなく、SL、おんぼろバス、そして佐渡へ向かう連絡船などの移動体撮影になると、再び映画は躍動する。若干もたれ気味のストーリーを、この開放感のあるカメラと、芦川いづみが救っている。

【追記】 書き忘れたが、本作品のラストは現場再検証中に新たに得られた証言を通して無罪を勝ち取った主人公カップルが、冒頭のバンに乗って事件のあった村を駆け抜けるシークエンスで終わる。ここで小高雄二はずっとクラクションを鳴らし続け、ラストで「二度と振り返らない」と芦川いづみに告げる。冒頭の疾走とも呼応し、素晴らしい終幕だ。

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