『硝子のジョニー 野獣のように見えて』について付言。
この作品でアイ・ジョージが演じている男はたしかに屑だが、彼が駅で刺されて警察に捕まった後、芦川いづみがあのように懸命に介抱し、その上「ジョニー」と呼びさえしたのはなぜかを考えると、芦川によって信頼するに足る何かを認められたと見るのが妥当だろう。これはたぶん作り手(監督と脚本)によるキャラクター・デザインに由来している。彼が病室で「硝子のジョニー」を歌い、妻・千春(桂木洋子)の突然の出奔を芦川に打ち明ける場面もたんなる付け足しではない(この箇所は芦川が海辺の詩人の思い出を語る重要なエピソードに続くものだから、けっしてアイ・ジョージに歌わせるためだけに挿入されたのではない)。
そう考える根拠は、冒頭の海辺の場面で、芦川を買いつけにやってきた彼が、いきなり裸になって海に入るという演出にある。物語にとってはまったく余計であるようにも思えるが、ラストで再び同じ海辺に彼が帰ってくるのを見れば、この呼応は映像構成の一環として構想されていたことがわかる。するとシナリオにおいても、アイ・ジョージは歌手だから作中で歌ったり、多少人気が出ていたから裸を見せたりしたわけではなく、むしろ芦川いづみから信頼を得られる何かを持つキャラクターとして位置づけられていたと想定していい。
ラストで宍戸錠とアイ・ジョージの間に奇妙な連帯が成り立つ理由も、同じところ(作中の芦川いづみにとって「ジョニー」たる資格を持っていること)にある。もちろん人身売買にかかわるというだけで人間失格であり、それは作中すでに南田洋子が指摘している通りだ。にもかかわらず、あえて芦川にそのような男を「ジョニー」と呼ばせるところにこの作品の価値がある。アイ・ジョージの起用について難を言ったらいろいろあるが、作品そのものの価値から見ればたいしたことではない。
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