「空の男」(『東京マダムと大阪夫人』の高橋貞二)

『東京マダムと大阪夫人』のオープニング・タイトルで、高橋貞二の役名は「空の男」になっている(八郎というきちんとした名があり、作中で何度もそう呼ばれるのに)。思うにこれは、高橋演じるキャラクターに川島雄三が籠めた意味の現れである。
翌年同じく松竹で製作された『昨日と明日の間』(1954)にも航空機のショットがある。川島監督は飛行機好きだったのかもしれない。とはいえ当時の日本で空の旅はまだ一般的ではなかったので、これは映画の素材として比較的珍しかった。実際作中でも、「空の男」高橋がひょいひょい飛行機で飛び去ってしまうのを追いかける側は列車を使っており、だから彼はなかなか捕まらない。このことが『東京マダムと大阪夫人』の設定を面白くしている。
高橋が東京マダムと大阪夫人の間、そして芦川いづみと北原三枝の間の対称性を破ること(大袈裟ですまない)は昨日のエントリーですでに指摘した。作中の均衡を崩しては去っていく役回りにとって、飛行機乗りは格好の職業である。
初登場場面で高橋が月丘の家(姉・水原の隣家)に上がりこみ、メシを食ったり昼寝をしたりすること(月丘が遠慮しないでとお愛想を言うと、彼は「隣りどうしだから遠慮しませんよ」と答える)、そこで坂本武(月丘、芦川姉妹の頑固な父)と芦川いづみに会うこと、姉の家の居候になってからも庭をひょいひょい越えては隣家に現れることなども、同じ間取りの、隣接する社宅を結びつける空間の表現において重要だ。また本作品のタイトルが伊達ではないのは、多くの登場人物が東京ー大阪間を往復し、ともに商家である東京の月丘の実家と大阪の水原の実家(水原と高橋は姉弟だから高橋の実家でもある)が比較されることが示す通りだが、高橋だけは飛行機で文字通り二都をまたにかける(東京ー大阪間の距離の表現)。どちらの場合も、高橋のキャラクターの特徴は空間を飛び越えたり結びつけたりすることであり、だからこそ「空の男」という役名がふさわしいわけである。

【追記】 この作品、最近BSで放送されたのをたった今知った。だれか〜、録画貸してください。

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