高橋悠治、シェーンベルク、シューベルト(モルゴーア・クァルテットと波多野睦美ライブ、2012)

「柴田南雄著作集」が取り持つ縁で、旧友から大変素晴らしいCDを頂いた。モルゴーア・クァルテットと波多野睦美による高橋悠治、シェーンベルク、シューベルトのライブ録音である(二つの高橋作品のうち「無伴奏ヴァイオリンのための『狂句逆転』」のみスタジオ収録)。

柴田南雄の書斎・スタジオ・資料室として開設したサンガクシャを引き継いだ柴田夫人純子氏主催による、同ホールでのコンサート(2012年5月)の演目は、高橋悠治「あけがたにくる人よ」(2012;半世紀をこえる友情の記念として柴田純子に贈られた弦楽四重奏とメゾ・ソプラノのための作品。永瀬清子の詩をテクストに持つ)、シェーンベルク「弦楽四重奏曲第2番 op.10」、シューベルト「弦楽四重奏曲第14番『死と乙女』D810」。

柴田純子はかつてアール弦楽四重奏団に所属し、シェーンベルクの同曲を演奏した。メゾ・ソプラノ独唱を伴うため、なかなか演奏されないこの曲をライブで聴きたいという彼女の希望もあって、2012年のサンガクシャでのコンサートが実現したという。

シェーンベルク作品は終楽章のみ無調で書かれ、「グレの歌」同様作曲家の無調音楽への移行期に位置する。とはいえその終楽章の表現主義的な様式は、マーラー「復活」から、遡ってブラームス「アルト・ラプソディ」に至るウィーンの伝統と密接に結びつく。シュテファン・ゲオルゲの詩を伴うこのシェーンベルクの音楽を、バロック・オペラのスペシャリストとして知られる波多野が歌っている。弦と調和する精確な音程が古楽演奏者ならではの、みごとなライブ演奏だ。高橋「あけがたにくる人よ」は、フランス・バロックのクラヴサン曲の記譜法として知られるプレリュード・ノン・ムジュレ(拍の指定を持たないプレリュード;この曲では全音符・四分音符・一六分音符の三種類が用いられている)の形式で書かれ、シェーンベルク「グレの歌」からの引用がある。メゾ・ソプラノと弦楽四重奏というシェーンベルク作品との組合せを考慮に入れた、高橋の新作でのモルゴーア・クァルテットと波多野の演奏も美しい。終結前の「あけがたにくる人よ」以降の響きにわたしはとりわけ魅せられる。

このコンサート=録音には、メゾ・ソプラノと弦楽四重奏という組合せの他に少なくとももう一つテーマがあって、それは死とその超克である。ゲオルゲと永瀬の作品に通底するだけでなく、作曲様式の変容にかかわらず、シューベルトからマーラーを経てシェーンベルクとアルバン・ベルクに受け継がれた主題でもある。シェーンベルクがこの日の演目の中心にあるとはいえ、シューベルト作品で締めくくる構成はよく考えられている。

ぜひご一聴を。

(「高橋、シェーンベルク、シューベルト/モルゴーア・クァルテット、波多野睦美、荒井英治/FOCD9651/2」)

 

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