「山鳩の歌」

モルゴーア・クァルテットと波多野睦美の演奏でシェーンベルクの弦楽四重奏曲第2番を聴いたのがきっかけで、今日は「グレの歌」をアップルミュージックで全曲聴き直した。小澤征爾とボストン交響楽団、タングルウッド音楽祭合唱団による1979年のライブ、ソロはジェイムズ・マクラケン(ヴァルデマール王)、ジェシー・ノーマン(トーヴェ)、タチアナ・トロヤノス(山鳩)他。マクラケンとノーマンは言わずもがな、モルゴーア・クァルテットと波多野睦美のCDにシェーンベルクと並んで収録されている高橋悠治「あけがたにくる人よ」(2012)に引用された「山鳩の歌」に関心があったため、トロヤノスがこれを歌っているのにも惹かれた。この人は「カルメン」や「薔薇の騎士」で一世を風靡したメゾ・ソプラノで、1993年に突然帰らぬ人となってしまった。

「山鳩の歌」は「グレの歌」第1部を締めくくる悲痛な曲で、ヴァルデマール王の若き愛人トーヴェの死を告げる。

この第1部で愛人を王妃に毒殺されたヴァルデマールは、続く第2部で神を呪い、このため亡霊となって彷徨う定めを負わされるものの、第3部の最後に救済を得る。全曲を閉じるのは大規模な混声合唱の賛歌だが、その前にオーケストラ演奏を伴うシュプレヒシュティンメ(Sprechstimme; それ自身はメロディをもたない語り。オペラのレチタティーヴォとは異なり、実質的な朗読)が朝とともに甦る生命の息吹を描写する。この語りから合唱への移り行きが非常に劇的だ。第1部最後の「山鳩の歌」は、直前のオーケストラの間奏(本編には登場しない王妃によるトーヴェの毒殺が器楽のみによって描かれる)と直後の王の呪いの歌に挟まれていて、この位置は構成上ちょうどラストのシュプレヒシュティンメに相当する。楽曲もメロディを際立たせることなく、音程の跳躍はあるものの静謐な進行を見せる。当時のメゾ・ソプラノの第一人者トロヤノスの歌唱は見事であり、アップルミュージックのクラシック音楽に向かない仕様(もとの録音は楽章間の切れ目がないのに、このサービスでは残念なことに楽章間で音量が一瞬落ちる)にもかかわらず楽しめた。

ついでに何か他のよい録音はないかとググッていたら、92年のアバド、ウィーン・フィル盤が復活していた。山鳩さんのマルヤナ・リポヴシェクという人のことは知らないが、タチアナ・トロヤノスとで韻が踏めるし(踏めない)、この曲はウィーン・フィルの音で聴いてみたいし、アバドもベルリンへ移ったばかりで絶好調の頃だからたぶんおもしろいのではないか、などと考えつつ、シュプレヒシュティンメはだれがやるのと紹介記事を追ったところ、ふつう男性がやる語りを、女優のバルバラ・スコヴァが担当したと書いてある。

女優の、とあるので、ファスビンダー『ローラ』、最近ではフォン・トロッタ『ハンナ・アーレント』のあのスコヴァに違いない。繰り返しになるが、「グレの歌」では間奏曲から語りへ、語りから合唱への移り行きが素晴らしいので、この要所を彼女が担うとは聴きものである。マルヤナ・リポヴシェクとともにぜひ聴いてみよう。

 

カテゴリー: 音楽   パーマリンク

コメントは受け付けていません。