岡谷の町

岡谷の町はなかなかよかった。諏訪湖のほとり、天竜川の起点に位置し、明治期には蚕糸業によって富を蓄積した。その遠い名残りが点在している。明治9年に天竜製糸所を起こした林国蔵の宏壮な旧宅は、主屋・離れ・茶室・洋館・土蔵からなる。主屋と洋館は廊下と離れを介して繋がり、一つの建築物が和洋二つの顔を持っている。

普通は洋間の壁紙に使用される金唐革紙が、離れ二階の土蔵造りの客間に張り巡らされていたり、茶室が洋館に隣り合っていたりと、風変わりな構造だ。座敷の欄間の透し彫りや仏壇の迦陵頻伽と羅漢など、工人の技も見所の一つである。明治の終わりに十年がかりで建てられたという。岡谷駅から徒歩五分。この時代の建築物としては保存状態がよい。建築に関心があるかたはわざわざ訪れる価値がある。

岡谷は鰻料理の町でもある。駅から北へ十数分ほど、途中、画家武井武雄ゆかりのイルフ童画館、岡谷絹工房の立派な洋館(旧山一林組製糸事務所)、清酒・神渡の大がかりな醸造所などを見ながら歩いて行くと、一軒家の老舗・小松屋がある。岡谷の鰻のタレは江戸前とは異なり、やや甘口と聞いていた。小松屋の櫃まぶしは上品な味付けで、食べあきない。その土地で長年培われた味わいには他と比較できない価値がある。すぐ裏手で醸したばかりの神渡のさっぱりとした辛口の温燗と鰻はとてもよく合う。

酒蔵


神渡

各駅停車を中央本線から飯田線に乗り継ぐついでに立ち寄ったのだが、電車の待ち時間をはるかに超えて長居してしまった。

カテゴリー: ナマケモノ, 旅行   パーマリンク

コメントは受け付けていません。