第九日

第九日は、“OUT1 Noli me tangere” エピソード5「コランからポーリーヌへ」、および6「ポーリーヌからエミリへ」の復習である。

オブザーバーにサラを迎えたトマのグループのその後、新メンバー・ルノーに大金を持ち逃げされ、『テーバイ攻めの七将』を放棄してルノーの行方を追うリリたち、「偶然の角」で急速にポーリーヌと親しくなっていく一方、そこに現れたサラの後をつけてトマの稽古場に行き、ジャーナリストを装って彼から十三人組についての見解を引き出そうとするコラン、エティエンヌの家から盗み出した手紙を「グループ」のゆすりのネタにするフレデリック等々、重要なエピソードが目白押しである。しかし、これらのいくつかにはすでに一周目で触れたので、ここではエピソード6の終わりに出てくる、第三のメッセージのもう一つの解読を取り上げる。

ポーリーヌの店に入り浸りつつも、コランの頭からは例のメッセージの偶数行、つまりスナーク狩りから十三人組への線を示唆する文章が離れない。そこで現代の陰謀に少しでもかかわりがありそうな人々を見出すと、「パリ・ジュール」紙のジャーナリストを装って突撃取材を行う(これを受けたトマは内心穏やかではなく、やがてエティエンヌやリュシーと密かに連絡を取り始める)。

さてメッセージの偶数行は次のような文章だった。

もっとよくスナークを狩るための十三人――
彼らはブーと出会いはしなかっただろう、
彼らが消え失せるのを見たブー・ジャム、
彼らを消した時間を過ごしているブー・ジャムとは。
他の十三人は形成した ある奇妙な乗組員を。

エピソード6 のラスト近く、コランはすでに暗記しているこの文章を繰り返し朗唱しながら街を歩く。この長回しのジャン=ピエール・レオーの即興演技はとても爽快かつ愉快で、通り過ぎる人たちはみんな彼を振り返って見ているし、何人かの子供たちが後をついてくる。

自室に戻ったコランのもとに、突然暗号解読につながるアイディアが訪れる。奇数行の読解では行頭のシラブルが鍵であった。今度は行末のアルファベットを取り出してみてはどうか。SNARK、BOO、S’EVANOUIR、GOMMA、EQUIPAGE から最後の一文字を取り出すと、KORAE となる。彼はこの単語をつぶやいてみて、しばらく考え込み、ついでキャロルの『スナーク狩り』を取り上げてその一節を原文で読む。

「スナーク狩り」を読むコラン

原文で EQUIPAGE はCREW である。メッセージの中で、この単語だけオレンジ色になっているのは、もとの単語に置き換えよという指示ではなかろうか。コランは E を W で置き換えてみる。さらに奇数行では上から下へシラブルを続けたのと反対に、今回は下から上に読む。すると現れたのは、WAROKという名だ。コランはこの名に覚えがある。

WAROK

次のエピソードでコランは、さっそく哲学者ワロックを訪ねることになる。この展開を、おそらくいまの観客の多くは強引であると受け止めるに違いない。しかし、たとえばワロックというのが、ジャン=ポール・サルトルやミシェル・フーコーのように高名な人物だったとしたらどうだろう。この作品の「時間」は1970年である。当時のフランスでは、「哲学者」といえば一握りの人々しか指さなかった(日本でもそれは同様だった)。本作のモティーフ「十三人組」は、フランスという階級社会の、とりわけ知的階層にあって、十九世紀のたんなるお話ではない。これは余談だが、本作のワロックはどことなくサルトルを思わせないだろうか。『ママと娼婦』にもサルトルが「登場」していたことを考えると、コランがWAROK という単語から、即座に高名な哲学者にたどり着くという展開は、そんなに荒唐無稽には思えない。

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