京都造形芸術大で、モーレン・ファゼンデイロ監督(Maureen Fazendeiro)の “Motu maeva”(2014)を見る機会に恵まれた(2015/11/25)。
素晴らしい作品である。ミゲル・ゴメス監督の最近作『アラビアン・ナイト』にも出演し、かつロケーション・ハンティング等にもかかわったファゼンデイロ氏の名の発音は、今日同席したミゲル・ゴメス氏の場合、モーリーン。彼女はフランス国籍でフランス語話者だが、造形芸術大はその事実を把握していなかったため、今回ポルトガル語通訳のかたのみを依頼したとの説明があった(ゆえにモーリーン監督は今日の質疑で必ずしも語りたいことを語り尽くしてはいない様子だった)。
“Motu maeva” はモーリーンさんの友人(正確には友人の祖母)ソーニャをめぐるポートレートだ(ミゲル・ゴメスによればたんなるポートレート以上)。ソーニャはドイツ人を母に持つフランス人で、(おそらく)オランダ系の夫ミシェルと結婚し、夫とともにアフリカ、タヒチ、インドシナ各地を旅して生きてきた。今はブルゴーニュの広大な庭と池に面した家(入口には “Motu maeva” と書かれた看板が掲げられている) に一人で暮らしている。
作品についてはまずその撮影方式に注目すべきで、今日Blu-rayで上映された作品のもともとの媒体はスーパー8である(かつて主としてホーム・ムービーに用いられた8mmフィルム)。画面の左手にはパーフォレーションの空隙がそのまま残されている。
ソーニャ(制作の時点でおそらく75歳を越えているので、1940年前後の生まれ)自身と彼女の家族または友人がスーパー8で撮影した素材(18時間を超える量が残されている)との同調を図ることもあって採用された。パーフォレーションの穴を残したのは、フィルムからデジタル記録方式へ推移してきた媒体の歴史とともに、ソーニャがいまもその中で生きている彼女自身の記憶(それらはスーパー8やカセットテープによる記録といっしょに現存している)のあり方を提示するためだという。
それだけでなく、監督(モーリーン氏)は、この作品を極力少人数で制作するつもりだったため(事実編集はすべて監督の独力でなされている)、ソーニャさんが撮影したスーパー8 の仕様に合わせて現在の彼女とその自宅および庭を同じ媒体で撮ることには合理的な理由があった。この作品の迫力の理由の一つはこの媒体に由来する。
これもモーリーン氏の説明によると、彼女がソーニャの自宅と庭を訪れ、その話を聴いているときに感じたのは、各地を巡り歩いたソーニャの記憶が、彼女のブルゴーニュの庭の中に重層化されて植えつけられているかのようだということだった。ゆえにこのフィルムにおいても、ソーニャ自身が撮影した20世紀の映像は、彼女が現在住んでいるブルゴーニュの広大な(しかしかなり荒廃した)庭のそれと交替して提示されている。
モーリーン監督によれば、この意味で本作品はソーニャのポートレートであると同時に、彼女の記憶を湛えている彼女の庭の記録である(ミゲル・ゴメスがこの作品をソーニャのポートレート以上という理由もここにある)。事実このフィルムの冒頭とラストに登場するソーニャの庭の映像は素晴らしい力を持っている。
作品のラスト近く、ソーニャは亡くなった夫ミシェル(作中ソーニャ自身の撮影による彼の映像が登場する)に宛ててクリスマスのメッセージを録音する。この録音が感動的で、彼女は死者に寄せたメッセージの中に自分自身を登場させる(1961年という、二人にとってもっとも美しい時が刻まれている)。
ミゲル・ゴメス監督は、モーリーン監督について、彼女こそ自分(ゴメス)の作品における幽霊の存在を指摘した最初の人だと今日述べたが、本作品のクリスマス・メッセージには、『熱波(Tabu)』のアウローラを髣髴させる幽霊の現前を見ることができた。
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