Marie Gueden による “Kommunisten” 評から

《La récitation de la vie n’aura jamais de fin》と題されたMarie Gueden の『共産主義者たち』評(http://www.critikat.com/actualite-cine/critique/kommunisten.html)は、Franco Fortini のスペルが間違っていることや、ドゥルーズ、ランシエール流の、あまりに簡潔に論点を示す方法に若干の問題はあるが、このストローブ作品を構成する六つのパート(Gueden 氏は断章 fragments と呼んでいる)相互の関連、とりわけ異なるタイプの声(オンのそれとオフのそれ)の響き合いについて明晰に論じている点が参考になる。また『共産主義者たち』において『エンペドクレスの死』と「黒い罪」の引用がどのような役割を果たしているのかについて述べた箇所も読む価値があるので、ここを訳出しておく(訳冒頭の一文、「ヘルダーリン『エンペドクレスの死』の詩行は、『共産主義者たち』の諸断章からかけ離れており、それらと対立しているかもしれない」の趣旨は、訳出箇所全体を読んでいただければわかるように、‟そう見えるかもしれないが、実際はそんなことはない” ということなので念のため)。なおヘルダーリン『エンペドクレスの死』の詩句は、すべて谷友幸氏の訳(『エムペードクレスの死』、岩波文庫)から引用させていただいた。Gueden 氏が省略した箇所を含めて、本文が参照している詩行を最後に掲げておく(第一稿、第二幕第三場、pp.131-132)。

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ヘルダーリン『エンペドクレスの死』の詩行は、『共産主義者たち』の諸断章からかけ離れており、それらと対立しているかもしれない。その詩行には、抵抗(レジスタンス)の共同体に関する言明――「手を握りあ」い、「誓約を交し」、「財を頒ちあ」う――に固有の色彩がある。抵抗状態(レジスタンス)に入るときに、問われているのは決心することだとわたしたちは理解する――『共産主義者たち』の各断章がそれぞれのやり方で結局それを明らかにしているように。

いまこそ 決行するがよい おまへたちの繼承したもの 取得したもの
父祖の口から 語り傳へられたことども 遺訓
法律 慣習 はたまた 古い神々の名號も すべて
思ひきつて 忘れ果てるがよい 新生の子らのように
神々しい自然に向つて 眼を上げるのだ
(……)生命の甘い息吹は いまさらのやうに
初々しく おまへたちの胸を 浸す

こうして「宇宙の生命」、「聖なる子守歌」――『共産主義者たち』最後の断章において、ダニエル・ユイレの声とこれに続くベートーヴェンの音楽によって生起する「新しい世界」のそれ――がわたしたちを捕らえる。弦楽四重奏曲作品135 の最終楽章から引用された箇所はまさしく「ようやくついた決心」(《Der schwer gefasste Entschluss》)と呼ばれている。決心を後押ししていたのが自然、無関心ならざる自然であったかのように、すべてが進む。ヘルダーリンが一種の範型を示した自然である――すなわち、「崇高な諸力」(山、海、雲、星)は「血肉を分かちあつた 英雄たちのごとく」。この斉一性(平等)はまたジャック・ランシエールがヴェルトフの作品に認めたものだ。彼が「生の同じ均整」を作り出す「映画の斉一な運動」について次のように述べたときに――「そこでは生が自分の斉一な強度以外何も語らない、これらすべての運動(mouvements)の調和(symphonie)」、哲学者が「運動の普遍的な交換のコミュニスム」と呼ぶ調和(原注)。

原注 Jacques Rancière, Les Écarts du cinéma, La Fabrique éditions, 2011, pp.42-43.

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訳出した文章が参照している『エンペドクレスの死』の該当する詩行は以下の通り。

連れ去られる日まで待たず いさぎよく 身を自然に投ぜよ――
おまへたちは 久しく 非凡なものを 渇望し
病める形骸の 脱ぎ棄てられるごとく アグリゲントの精神の
古い軌轍が 打破される日を 待ちわびてゐたでないか
いまこそ 決行するがよい おまへたちの繼承したもの 取得したもの
父祖の口から 語り傳へられたことども 遺訓
法律 慣習 はたまた 古い神々の名號も すべて
思ひきつて 忘れ果てるがよい 新生の子らのように
神々しい自然に向つて 眼を上げるのだ
このとき 精神が 上天のひかりに觸れて 火を
點じられ 生命の甘い息吹は いまさらのやうに
初々しく おまへたちの胸を 浸す
・・・・・・おまへたちの平和の精たる
宇宙の生命が おまへたちを拉へ おまへたちの魂を
聖なる子守歌のやうに 鎭めるとき いつしか
至樂の 美はしい黎明のなかから きらきらと
大地の綠が あらたに 輝き出でよう
山も 海も 雲も 星も すべて
崇高な諸力が あたかも血肉を分かちあつた 英雄たちのごとく
まのあたりに 立現れて おまへたちの胸は 戰士さながら
獨自の麗はしい世界を望み 偉業を求めて
高打つだらう そのをり おまへたちは たがひに
またも 手を握りあつて 誓約を交し 財を頒ちあはねばならぬ
おお そのときこそ 親愛な者らよ かの誠實なディオスクーレンのごとく
事功と榮譽を 頒つのだ ここにいたれば 諸人も なべて齊しく
あたらしい生活は 正しい秩序のうへに 築かれて
ほそやかな列柱に支へられた家のごとく 泰らかに
掟が おまへたちの結束を いよよ固めるであらう

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