『チャイナ・ゲイト』

サミュエル・フラーには似合わない形容だが、珠玉の作品である。今回の boid とユーロスペースによるフラー特集で劇場初公開された。

フラー・ファンならまず英語版Wikipediaの “China Gate(1957)” を読むべきである。元ビッグ・レッド・ワン所属のゴールディを演じたナット・キング・コールがフラーと会って本作への出演を快諾した経緯、作中披露されるコールの歌は本作の仕事を最後に亡くなった作曲家ヴィクター・ヤングへのトリビュートであること、後に映画化される『ホワイト・ドッグ』の原作者ロマン・ガリーとフラーの意外な出会いなどをめぐる記述が興味深い。これらのエピソードも、最近翻訳されたフラー自伝にくわしく出ているはずだ。

舞台は第二次大戦直後のベトナムである。フランスからの独立戦争を指揮するホー・チ・ミンと彼を支持する中国が、越中国境に築いた要塞「チャイナ・ゲイト」の武器庫を破壊するため、フランス軍が協力を求めたのは元米軍の爆薬エキスパートであるブロック(ジーン・バリー)。現地の案内役はこの男の別れた妻、通称 “Lucky Legs”(アンジー・ディキンスン) だ。彼女は現地人と白人の間のハーフだが、外見は白人にしか見えない。ブロックは彼女との間に男子をもうけたにもかかわらず、誕生したわが子を一目見て、東洋人そのものの容貌に衝撃を受け、妻と子を置き去りにしてしまう。フラーが何度も批判的に取り上げたレイシズムがここでも主題化されている。

本作でのナット・キング・コールの役割の一つは、人間の屑ブロックに対する批判者だが、フラー作品の常として、二人は戦場で生死をともにしているため、ずっと対立し続けるわけにはいかない。早逝したコールの演技はおそらく出演を要請したフラーも驚いたであろう素晴らしさである。彼が演じるゴールディは、米国に残してきた妻との間に子どもができず、養子を取ることも考えていたので、戦火で荒廃したベトナムの村で出会い、自分になついていた(ブロックと Lucky Legs の間の)子を、作戦が終わり次第米国に連れて行くつもりだった。それゆえ目の前に現れた父親のブロックが、実の息子と対面しながらその子に愛情を感じないことに驚き呆れている。ゴールディはこういう蔑むしかない同僚と命がけの行動をともにしなければならない。とてもむずかしい役だと思うが、それをコールは好演している。

『ショック集団』にも現れるビッグ・レッド・ワンのモチーフが、57年制作の本作においてすでに明確化している。百万回は引用されたであろう名言「映画は戦場だ」はけっして伊達でなく、死んでいく者たちの描写がぶっきらぼうでリアルだ。詳細は言わない方がよいだろう(現時点で youtubeに全編が上がっている)。

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