『アブラハム渓谷』

鏡の中を覗いて帽子をなおすエマ、額縁に収まった何世代も前のレイディ、アウグスタおばさんの歴史的な祭壇、なぜだか長方形の長辺がとても長く、うなぎの寝床のように奥深い構造になっているエマの生家等々、本作の構図の基本は、縦長のもの、あるいは奥が深いものをヴィスタヴィジョンのサイズに収めることにある。

エマに思いを寄せていた、オゾーリオの別荘の執事が、ちょっとした財産をこしらえてエマを訪ねてくるシーンの直後、彼女はリティーニャの献身にひきくらべながら自分の生の虚しさを振り返る。彼女は亡き母の写真がその傍らにある鏡に向かって旅じたくを整える。エマが鏡から離れると、一瞬そこにキリストの磔刑図が映る。パエヴァ家にはないはずの、あのアウグスタおばさんの祭壇のキリストのようにそれは見える。

ここからシューマン「月の夜」が流れ、エマはリティーニャを抱擁してから、ヴェスヴィオ荘へ向かう。彼女が去った後、リティーニャが見上げるのは教会の小さな鐘楼である。

鏡像、アウグスタおばさんの祭壇とキリスト磔刑図(端的には十字架)に代表される縦長の構図に、エマがその中を巡っていくスノッブな男たちの世界、すなわちこちらはヴィスタヴィジョンにぴったり収まるほど「凡庸な」空間が対比される。こういう簡潔かつ明晰な構図を駆使することで、『ボヴァリー夫人』の世界像を映像化するオリヴェイラのマニエラには感服せざるを得ない。

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