再びイドメネオについて

明日から連休ですよ、飲みましょうと、うきょうくんから呼び出しのメールが来た。昨夜のことだ。わたしはすでに晩酌を済ませ、出来上がっていたのだが、まあいっか、と近所のビアパブまで足を運んだ。

カー『貴婦人として死す』を読んだばかりなので、ちょっとだけその話をした。もちろんトリックには触れず、原作とは異なる、わたしの解決を披露させてもらった。本作は『白い僧院の殺人』と並ぶ優れた「足跡モノ」で、身を投げたと思しきカップルの足跡が岸壁に残され、他人が近づいた形跡はいっさいなく、足跡にもたとえばだれかが一人で岸壁まで行き、靴を履き替えて逆向きに引き返したとか、二人分の足跡をつけてから竹馬に乗って立ち去ったなどのせこい操作は加えられていない。それなのに後日見つかった二人の亡骸にはともに至近距離から撃たれた銃創があり、かつその弾丸を発射した銃はカップルが姿を消した少し後に、断崖から遠く離れた道路脇で発見されている。つまり彼らは心中したのではなく、何者かに殺されたのだ。犯人はカップルを二人とも至近距離から撃った後、自分の足跡を残すことなく消え去ったことになる。この不可能犯罪を解決するカーの手際は鮮やかである。しかし、わたしの謎解きも原作に引けを取らない。

すなわち犯人はあらかじめ二匹のオランウータンを準備し、カップルの靴を履かせておいて、絶壁のかなたに数本のバナナを投げたのだ。そこが断崖であるとはつゆ知らぬ彼らは一目散にバナナ目がけて走り、哀れにもともども崖から海へと落ちていった。その後犯人はカップルを別の海辺に呼び寄せ、撃ち殺して海へ投げ込んだのである。合理的である上、「モルグ街の殺人」を踏まえた由緒ある解決と言えよう。タイトルも、“She Died A Lady” 改め “He Died A Man”(『人間として死す』)。

わたしはこれを機に、すべてにオランウータンが絡む十二編からなる連作ミステリを書くという構想をうきょうくんに語って聞かせたのだが、なぜか反応がない。より正確に言うと反応はあったが、はいはいわかりましたよ、知ったこっちゃないけどという、あってなきがごとき、いやこれならむしろない方がよっぽどよい最低の反応である。

それだけではない。うきょうくんは最近こちらが何も言わないうちから、何かにつけて「そこでイドメネオですね」と言い出す始末である。つまり、わたしの独断と偏見をからかうネタとして、あろうことかイドメネオを引き合いに出すのだ。実にけしからん。

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