アルスラン『黄金』

時は1898年。カナダ北方ブリティッシュコロンビアの鉄道駅に集まった5人の男女ーー時期遅れのゴールドラッシュに引かれてやって来たドイツ系の人たちだ。流行らないレストランを畳んで参加した初老の夫婦、旅行記でひと山当てる目論見の元記者、妻子を残してニューヨークの貧民街から出て来たバンジョー弾きの元大工という冴えない面々に、遅れて加わるのはニーナ・ホスである。『東ベルリンから来た女』と前後して、アルスランの「ウェスタン」に出演していたなんて(エンドロールに「2012年にカナダで撮影」と明記されている)。

彼女のいでたちは、鮮やかなグリーンのロングスカート、丈の短い濃い茶色のぴったりしたジャケット、牧師がかぶりそうな黒い山高帽と、お世辞にも華やかとは言えない。とはいえ少しびっくりしたような青い目に、ブロンドの乱れ髪が印象的な小顔の彼女が、馬上でも崩れないぴしりとした背筋でこれを着こなすとなかなか様になっている。

彼女の役どころは、アルスランのいつもの流儀で謎めいている。シカゴ在住ドイツ系アメリカ人宅の家政婦の求人をブレーメンで見かけて渡米し、4、5年低賃金で働いた後結婚するもののすぐ別れ、この度は新規巻き直しで金鉱を掘り当てる腹づもりらしい(本人談ーーあくまで役の上で)。女性が単身乗り込む博打としては、かなりリスキーである。

この怪しい金鉱探しを提案し、新聞広告で参加者を募ったのは、ブリティッシュコロンビア北部のドーソン(たぶん今のドーソンクリーク)付近で金塊を発見したという触れ込みの男で、今度のドーソン巡礼行の道案内も彼が務める。しかしながら、映画の進行とともに明らかになるのは、彼にはドーソンへの道などまるっきりわかっていないという事実であるーーこの男が時々懐から取り出してみせるきらびやかな物体から推して、ドーソンで金塊を見つけたという話は本当のようだが、その際彼は陸路を使いはしなかったようだ。一行の行手にいずれ現れるのはただの原野と山と雪渓であり、そもそも道なるものが存在しない。

紹介が遅くなったが、ニーナ・ホスとともに主役を演じるのは、馬と荷物の管理のために雇われたイケメン(マルコ・マンディク)である。休憩中も馬の世話を休まず、食事もひとりで取る寡黙なこの男に、ホスは少し心惹かれた気配なり。

以上の7人が旅の道連れである(クマ用の罠にあんよを挟まれる酒びたりの元記者を演じるのは『イン・ザ・シャドウズ』の腐敗警官ウーヴェ・ボーム)。

フリック入力が少しつらくなってきたので先を急ぐと、この作品のサイズはアルスラン初のシネマスコープである。ラスト近くの辺境の町を除いて、ほとんどロケーション撮影されており、木々の間や原野を行く馬上の7人を捉えるカメラの色調はたしかにアルスラン調の冷たく冴えたそれではあるが、アンソニー・マンとイーストウッドの「北方もの」(『遠い国』、『ペイルライダー』)の空気感を持っている。ではアルスランの美しい窓辺のショットを見ることはできないのかと言えば、そんなことはない。ラスト近くの辺境の町の、宿屋の窓辺はやはり美しい。ただし、この窓辺は悲劇を目撃する舞台ともなるのだが。

道中いろんなことが起こるのはウェスタンの常道だから、その点は細かく書くこともあるまい。ラストのニーナ・ホスはイケメンのジャケットを着こんで颯爽と馬上にいる。そのイケメン、ベーマー(Boemerという綴りであることは最後にわかる)に笑顔で贈る彼女のセリフもなかなかよい。

『東ベルリンから来た女』の自転車もよかったが、馬に乗るニーナ・ホスも素敵である。ラストシーンに吹き抜ける風。『ホワイティ』の変調とはまったく異なる、魅力的なウェスタンだ。(アテネフランセ文化センターで今日)

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