ブラジルの独立

オリヴェイラ『フランシスカ』の物語は、ブラジル独立直後の時代に設定されている。無知なので検索したところ、ざっと調べただけでも興味深いことがいくつか出てきた。

ナポレオン戦争の時代に、仏軍のポルトガル侵攻に慌てた当時のポルトガルの王族は、何と宮廷ごと大西洋を渡ってリオデジャネイロに落ちのびた。海上帝国ならではの発想だ。常識的に考えれば、いくら辺境に位置するとはいえハプスブルク家との関係が深い欧州の宮廷が、まるごと新大陸に渡ってしまうなどということはまずあり得ない。ウィーンの宮廷だって、引っ越したのはつい目と鼻の先のプラハであった。ポルトガルの王族は強大なハプスブルク家に付いたり離れたりしてきたのだから、いくらナポレオンが脅威だったとしても、どこか近場に逃げ場所くらい確保できなかったのだろうかと思う。わたしはバロック音楽が好きだから、ゴールドラッシュ後のブラジルに独自のバロック文化が花開いたことは知っている。しかし、海を越えての宮廷のお引越しは初耳であった。

さらにおもしろいのはこのお引越しよりも、リオに腰を据えた王のその後である。海上帝国の統治形態と指揮系統がどのようなものだったか、わたしは何も知らないが、宮廷がリオに移っても、本国での王の力はしばらく維持されていた。そうこうするうちにナポレオンの覇権は潰えてしまう。そうなったらポルトガル王もさっさと帰国すればいいじゃないかと思うが、なぜか彼はブラジルが気に入ってしまい、王太子らとともに、リオの暮らしを満喫している。さすがはエンリケ航海王子の伝統を受け継ぐsaudadeのお国柄である。

だが予想される通りにリスボンで革命が起こる。ナポレオンという反動を目の当たりにしたばかりでも、当時の欧州は自由主義ブームの真っ最中だった。とはいえポルトガルの軍人も自由主義者も、フランス革命直後の大混乱は忘れもしない。ブルジョワ革命が大衆の怒りと結びつくことを恐れ、とりあえず立憲君主制がめざされた。憲法の権威だけでは不十分なので、リオにいる王は帰国してくれと矢の催促を受ける。それでしぶしぶリスボンに戻った。

ブラジルには王太子が残って統治することになった。途中の細かい事情をはしょって書くと、本国に帰ったポルトガル王は、あんなにブラジルを好んでいたくせに、自分が欧州に戻ったとたん、やっぱりポルトガルのほうが大切ということになったらしい。国内のいろいろな勢力の駆け引きに引き込まれたとか、それらの間で調整を図らざるを得ないといった事情があったかもしれない。とにかく少し前まで本国と同等の権威をブラジルに認めていたのに、その地位を本国に劣後させる政策に同意した。

怒ったのはブラジルの権力者たちである。彼らは王太子を担いでブラジル独立を図る。ここでも憲法の権威だけでは統治がままならないという事情で、王太子は王に格上げされることになった。つまりブラジル革命も、本国の「革命」同様立憲君主制を指向するのである。

ポルトガルの歴史にはどこか大河小説めいたところがあり、細部を拡大すれば奇想天外なファンタジーが繰り広げられる。むろん植民地の先住民族殲滅と奴隷貿易というブラック過ぎる歴史を忘れてはいけないが。

 

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