ラモーとジャンティ・ベルナール

『カストールとポリュックス』の2ヴァージョンを比較して聴いてみようと思い、ググってみたら、ラモー・オペラDVDBOX なるものを見つけた。前にここで紹介したクリスティ指揮の『ボレアド』の他に、『カストールとポリュックス』(新旧どちらの版かの記載なし)、『優雅なインドの国々』、『レ・パラダン』、『ゾロアストル』を収めている。しかも5000円代(わたしが買った『ボレアド』は単体の定価が5000円ちょっとだった)。早速ポチったが、メーカー取り寄せなので品切れになっていないことを祈る。いまわたしの『ボレアド』のDVDはうきょうくんのところに行っている。もしこのBOX を無事に入手できたら、『ボレアド』単体は彼に進呈しよう。日頃、当ブログを過疎過疎言っている憎たらしいやつだが、ラモー好きに免じてこれも許す。

ところで、ラモーは『カストールとポリュックス』のリブレッティストに、当時無名の若きPierre-Joseph Bernard(後に Gentil-Bernard の呼び名で知られることになる作家)を起用した。酒場でたまたま知り合ったベルナールにラモーのほうから本作の脚本を書かないかと持ちかけたらしい。出来上がった作品は、短いプロローグに続いていきなりカストールの葬儀の場面から始まるという常識外れの構成で、しかもカストールは第4幕まで登場しない。ふたご座神話に基づいて新作を書くということはラモー自身の構想だったので、おそらくベルナールは作曲家と入念な打ち合わせを重ねつつリブレットを執筆したはずである。とすればいま触れたような特異な構成にもラモー自身の意見が反映していたと考えられる。37年版の葬儀の音楽は54年版では第2幕になっているが、それでも十二分に驚異的な音楽なので、これがいきなり冒頭に置かれていたら、当時の聴衆はびっくりするはずである。

ところが、びっくりを通り越してわけがわからないと感じた聴衆が多かったらしく、初演の評価はかんばしくなかった。ラモーは納得いかなかったらしいが、その後54年まで再演の機会はめぐってこなかった。ただしこの間、パリの聴衆も続々と発表される彼のオペラに触れてようやくその革新性に気づき、喝采をもって新作を迎えるようになっていた。機は熟したというわけで、作曲家は53年秋頃から『カストールとポリュックス』の改訂に着手する。あらためて本作の真価を世に知らしめようとしたわけだ。このときラモーは、初演から16年も経過していたにもかかわらず、リブレッティストに再びベルナールを迎える。これはちょっといい話ではないか。16年間ラモーはカユザックを始め複数の熟練したリブレット作者を起用してきたので、改訂にあたってベルナールを煩わす必要はなかった。どういう経緯で彼を呼ぶことになったのかわからないが、とにかく改訂版による1754年の再演は評判となり、その後ラモーが亡くなった後も繰り返し上演され、ベルナールの名声もこの成功によって高まった。

周知の通り、ラモーが本格的に作曲を始めるのは40代になってからであり、『カストールとポリュックス』の初稿を書いたのは53歳の頃である(ベルナールは20代後半)。新進作家に意欲作の脚本を任せたり、初演がこけても自作の意義を疑わず、16年後に同じ作家と組んで改訂を進めたりするところには、20世紀後半の不屈のシネアストたちを思わせるところがある。

 

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