「UCLA映画テレビアーカイブ 復元映画コレクション」(フィルムセンター)

東京国際映画祭にあわせて開催されているフィルムセンターの特集「UCLA映画テレビアーカイブ 復元映画コレクション」(10月25日-11月6日)に連日通い、上映作品の質の高さとフィルムの表現力の豊かさに目をみはっている。

近年、デジタル技術を駆使して旧作を保存したり再評価したりする試みが活発になされていることは、映画好きにとって喜ばしい。ただ、そうした修復は通例フィルムのデジタル保存というアウトプットに向かって行われている。小津後期作品のデジタルリマスターなどが一例で、わたしたちはデジタル上映を通じて修復結果を受容している。

これに対してUCLA映画テレビアーカイブから今回フィルムセンターが借り受けた12作品は、すべて35mm フィルムである。ノイズ除去や褪色の修復過程などでデジタル技術が活用されているとはいえ、アウトプットをフィルムにするという、今日では贅沢な方針が採られている。もちろん超長期の保存のためにデジタル化は不可欠であり、技術の発展によって近い将来アナログ/デジタル間の映像表現における相違が乗り越えられる可能性も大いにある。それでも現状では、フィルムで制作されたものをフィルムで鑑賞する意義は失われていない。

たとえば今回の特集で取り上げられたルーベン・マムーリアンの『虚栄の市』(”Becky Sharp,” 1935)は 3色式テクニカラー(3原色それぞれのモノトーンで撮られた3つのネガを重ねてプリントすることで人間が事物を見るときに近い色彩を表現する)で撮影された最初の作品だ。本作復元版の冒頭の説明によると、『虚栄の市』は公開当初 3色式プリントで上映されたが、後年 2色式のそれに変更され、こちらのヴァージョンが流通してしまった。復元版はオリジナル通りの 3色式プリントである。具体的にどういう素材を見つけて復元したのか詳細は示されていないが、容易に推測できることは、3原色それぞれのマスター・ネガまたはデュープ・ネガ、あるいはオリジナル・プリントを発掘したということである。

いずれの方法によったにせよ、じっさいに見ることのできる復元版の色彩は驚くべきものだ。サッカレー作品にもとづく『虚栄の市』は、ナポレオン時代末期を舞台とするコスチューム・プレイで、登場人物たちが身に着けているドレス、帽子、軍服などの色も鮮やかである。これらを捉えたフィルムにおいて、滲むことのないくっきりした原色の再現と並んでおもしろいのは、淡いブルーやイエローなど中間色の繊細な表現である。人の肌や大理石の床、調度品や寝具、果物や真珠などの色あいが、おそらく被写体の色彩設計の通りクリアに出ている。緋色の軍服姿の男たちが登場する場面でも、女たちのドレスの中間色が緋色に負けることはない。保存状態の悪いフィルムで見るカラーの旧作の中には、どぎつく主張する原色やぼやけた中間色が興を削ぐ例も少なくないが、『虚栄の市』のこのヴァージョンに限ってそのようなストレスはいっさいない。

復元版のラストの場面だけ、突然それまでの滑らかな色調からうって変わり、滲んで雑な色合いになる。この箇所では最良の素材が発見されておらず、やむを得ず既存の 2色プリント版が使用されたのではないか。図らずもわれわれは「普及版」とオリジナル版を比較できるわけである。もともとの制作では、3色テクニカラーの表現力を想定して被写体の色彩を設計していたのだから、それが 2色のプリントに差し替えられてしまったら、観客が目にする映像は当然当初の色彩設計からかけ離れたものになる。

本特集のプログラムには、2色式テクニカラーで撮影された最初の劇場公開作『恋の睡蓮』(”The Toll of the Sea,” 1922)が含まれている。この作品が採用したのは、赤と緑それぞれのモノトーンで撮られたネガを重ねてプリントする方式であり、映っているのは赤や黄の花々と木々の緑が鮮やかな庭園に、褐色、クリーム色、2つの原色からなる衣装に身を包んだ人々が行き来する不思議な世界だ。赤と緑の 2色式では海や空の青は表現できないので、空はほとんど映らない。海はと言えば、褐色の獰猛な波をたたえている。このように、2色式で撮ることがあらかじめ決まっているなら、被写体の色彩設計もそれにあわせてやる。ところが 3色式で撮られた『虚栄の市』が、おそらくコストカットのために 2色式プリントで流布してしまえば、後世の評価が下がるのも当然だ。

『虚栄の市』は将来デジタル媒体で鑑賞されることになるだろう。しかしフィルムという媒体が残っている限り、オリジナルの色彩をフィルムで体験しておくことはむだではない。初期テクニカラーおよびそのための色彩設計がどれほど高い水準にあったのかを実感できたことは、本特集からもらった貴重な贈り物の一つである。

 

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