マスク

仮面ではない。サニタリーマスクの話である。

ある超一流のオーケストラには非常に顔が大きなヴィオラ奏者が属している。あまりに顔が大きいので、ヴィオラがヴァイオリンに見えるほどである。私はこのオーケストラのサブスクリプション配信を視聴しているが、当初、このヴィオラ奏者のショットが映されると、一瞬第二ヴァイオリンパートかと戸惑った。もちろんすぐ誤りに気づき、ヴィオラ奏者にも注目するようになった。

先日私は近所のスーパーマーケットに日用品の買い物に出かけた。その一階には薬局が入っていて、商品を並べた棚の一部が下りのエスカレーターから見える。あるコーナーがすっからかんになっており、張り紙らしきものが貼ってあるので見に行ってみた。マスクは一人(一家族)に一品という断り書きだった。先客の女性が本日最後のマスクと思しきパッケージを手にレジへ進む。その方が支払いを終えた後、レジ係の店員さんにマスクの在庫がないか念のため尋ねると、たった今売り切れたとの返答。すると先客の女性は、少し申し訳なさそうに私を振り返り、もし緊急に必要ならこちらの商品をお譲りしようかと言った。彼女の口もとを覆っているのはピンク色のぴったりとしたマスクであり、今買ったばかりの商品もそれと同じタイプであった。ピンク色の「小さめ」である。私は丁重にこの申し出を断った。

ありがたい心遣いに感謝しながらも、先客にピンク色の「小さめ」を譲る意志が本当にあったのか、訝しく思いもした。私はあの超一流のオーケストラのヴィオラ奏者ほどには大きな顔をしていない(それほどの顔なら先客も「小さめ」を提供しようなどとは思わなかったはずである)。またピンクのマスクは、それをかけたくないとまでは思わないにせよ、私には似合わない気がする。しかし、このことについてはそれ以上考えなかった。

花粉アレルギー持ちなのに、容易に予測できたマスクの供給不足も予測せず、手元の在庫も切れていたのだが、今朝近所のもう一軒のスーパーマーケット(イトーヨーカドー)でマスクの販売があった。朝九時の開店少し前から三十人ほどの人が並んでいた。私もそれに混じって、三十枚入りのマスク(普通サイズ)を購入した。少しずつ供給が再開されつつある様子なので、間違ってもネットで売られている不当な高値の商品に手を出すべきではない。

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