もうひとつの「イミテーション・オブ・ライフ」

ダグラス・サークのハリウッド時代初期の作品「パリのスキャンダル」(1946)は、もう一つのイミテーション・オブ・ライフである。
1) 周到なのか思いつきなのか判別がつかないシナリオ――コメディタッチで進行しつつ、巡礼物語風のいくつかのエピソードを積み重ねて、ついには地獄のような破局と天国のような昇華に同時に到達する。
2) ありそうにないできごとをリアルに捉える映像――踊り子にガーターをつけ、外すシーン。水浴する少女たちとそこへ馬に乗って通りかかる聖ジョルジュ=泥棒。シルクハットを被った自動人形のようなマネキン、マネキンに寄り添う女のシルエット、鳥籠を背負った男などによって周到に構成された夜のブティックのシークエンス。
3) 主演のジョージ・サンダースのどこまでもアンビギュアスなはかなさ――天性の泥棒が聖なる徴を帯びた存在に転化するにもかかわらず、泥棒も聖人もイミテーションでしかないことを暴露する。

【あらすじ】

才能豊かな天性の泥棒ヴィドック(ジョージ・サンダース)は自分が生まれた監獄で誕生日を迎える。彼の愛読書はカサノヴァの回顧録であり、同房の気のいいナイフ使いがただ一人の相棒である(腕利き揃いの泥棒一家の出)。相棒の叔母さんがパリの高級菓子店から盗んで送ってくれたケーキがこの日の誕生祝いの差し入れで、そこにはよく磨かれたやすりが仕込まれていた。

脱獄した二人はパリへ向かう途中、聖ジョルジュ村で休息を取る。翌朝寝ている二人の顔を見た神父の連れの画家は、生まれながらの悪人サンダースには気高い聖人の、気のいい相棒には身の毛もよだつ悪人の相を認め、ちょうど修復中の聖ジョルジュとドラゴンのモデルに二人を起用する。甲冑を帯びて馬に乗せられたサンダースは、ドラゴンの扮装でポーズを取っていた相棒を馬上にさらい、画家の隙を突いてそのまま逃走してしまう。パリに戻って泥棒一家の一人からナポレオンの署名を偽造した身分証を手渡された二人は、マルセイユで軍に入隊、軍服に似合う女を求めてキャバレーに繰り出す。さっそく人気の踊り子を口説き、ルビーを散りばめたガーターを盗み出すサンダースであった。

二年後の夏、二人の泥棒は再び馬で聖ジョルジュ村に差しかかる。教会を迂回して墓場に向かった二人が出会うのはペットの小猿に逃げられて困っている侯爵夫人。小猿を見事な計略でつかまえた縁で彼らは夫人の屋敷に招かれる。名を尋ねられ、たまたま墓石に刻まれたヴィドック男爵の名を騙ったことから、彼はその名で後世に語り継がれる。

侯爵夫人には二人のかわいい孫娘がいて、17、8になる長女は教会の聖ジョルジュの絵姿に恋をしている。彼女と友だちが水浴中の池のほとりをたまたまヴィドックが馬で通りかかる。脱ぎ捨てた少女たちの服に近づいたヘビを鞭の一振りで払い落したヴィドックを見て、彼女は聖ジョルジュの再来に驚く。

ヴィドックと相棒は侯爵夫人の館に宿泊することになり、さっそく夫人の宝石を盗み出す計画を練る。ところが夫人の娘婿は何と警視総監であった。ひるまず宝石泥棒を決行する二人。宝石を庭園に隠して館に戻るため、孫娘の部屋を通り抜けざま、ヴィドックは寝ている彼女の頬にキスをする。翌朝彼女は神父のもとに向かい、聖ジョルジュのキスの夢について告白すると、神父は馬で逃走した二人組の泥棒の件を話して聞かせ、それによって彼女はヴィドックの正体を知る。侯爵夫人の館は大騒動になっているが、少女は沈黙を守る。

ヴィドックは何食わぬ顔で警視総監を相手に名推理を披露、隠してあった宝石を発見する。犯罪捜査の並々ならぬ手腕を買われ、ヴィドックはパリ警察署長に就任する。すかさずヴィドックと相棒は泥棒一家の全員をパリ銀行の警備員に就任させ、周到に金庫破りを計画する。

そのパリでヴィドックを襲った想定外のできごとはマルセイユの踊り子との再会であった。彼女はヴィドックの前任の警察署長と結婚していた。解任された彼女の夫はヴィドックを恨んでいる。元踊り子のほうは夫婦生活に飽き飽きしており、再会したヴィドックに心を寄せる。彼女はガーターの件で半ばヴィドックを脅し、もう一度会うことを約束させる。

約束の夜はパリ銀行強盗計画の当夜であった。その日侯爵夫人が孫娘二人を伴ってパリにやってくる。戻った宝石を銀行の金庫に預けるためだ。ヴィドックと再会した孫娘ははじめて正式に挨拶する。それまでは恥ずかしがって彼を避けていたのである。ヴィドックは彼女から避けられるたびに少しずつこの少女に恋心を抱いていたが、再会によってその恋は決定的となる。

少女の妹がメリーゴーラウンドに乗りたがるので、ヴィドックは姉妹のお供をして遊園地に出かける。妹がメリーゴーラウンドに乗っている間に、少女は自分が見た聖ジョルジュのキスの夢の話をする。そのキスが現実のできごとだったかどうかを確かめようと言い、ヴィドックは少女にキスする。彼女は夢のキスとは感じが違うといい、ヴィドックとともに泥棒生活に入る決意を伝える。この瞬間ヴィドックの更生への決意が固まる。

銀行に赴いたヴィドックは金庫破りの準備も怠りない泥棒一家に対し、警察署長としてそのような暴挙は認めない旨を毅然として申し渡す。すると、日夜銀行に棲みついてすっかりその生活に馴染んでいた泥棒一家は、銀行警備のスタッフとして暮らすことを選ぶ。

一方ヴィドックとブティックで待ち合わせていた元踊り子は、帽子をいくつも試着しつつ、過ぎていく約束の時間を苛立ちながらやりすごしている。帰ろうとする彼女を引きとめるために、マダムは最新流行のシルクハット風の女性帽を紹介すると言って二階へ彼女を案内する。そこにはシルクハット風の帽子をかぶったマネキン人形が突っ立ち、そばには衝立で仕切られた着替え用のスペースがあった。夜も更け、ランタンの明かりで服と帽子を合わせる二人。

それを街路から覗うのは前警察署長の夫であった。妻が男と密会することを察知していたのである。彼は捜査用の様々な変装具を自宅に取り揃えており、今夜は小鳥売りに扮していた。小鳥を入れたいくつもの鳥籠を背負い、大きな顎鬚を付け、みすぼらしい衣服を纏っている。ランタンの明かりでぼんやり浮かび上がるシルクハットの男らしき姿と、寄り添う妻のシルエットを見て激昂した彼は、店に飛び込んで階段を駆け上がる。元踊り子は衝立の向こうで着替え中である。鏡に浮かび上がる顎鬚の夫の横顔、場面の奥に見える自動人形のようなマネキン、そして衝立の向こうに立つ元踊り子。異形の闖入者が夫であることに気づいた彼女は、ブラウスの胸をはだけたまま夫に別れを告げる。再び衝立の蔭に戻る妻を前署長は取り出したピストルで撃つと、不幸にも弾丸は彼女に命中してしまう。

約束の時間に遅れてやってきたヴィドックは元踊り子が死んでいることを確認し、前署長に残念だと言う。妻を殺めたばかりの夫は妻を死に追いやった男を探し出して決着をつけてくれとヴィドックに頼む。ヴィドックはもはや決着はついたと漏らす。

金庫破りの計画が頓挫して収まりがつかないのはヴィドックの元相棒である。彼はヴィドックを遊園地に呼び出し、得意のナイフで刺し殺そうと挑みかかる。腕を刺されたヴィドックはメリーゴーラウンドに逃れ、追ってきた元相棒を作り物の槍で刺し殺す。あれほど気のよかった相棒は一攫千金の夢に目がくらんだせいで悪の化身となり、代わりにあれほどの悪事を重ねてきたヴィドックは愛の力で悪を退治する槍を得たわけである。

ヴィドックは少女の父である警視総監にすべてを告白し、娘を愛する父からすべてを許される。また侯爵夫人も少女の妹もヴィドックの告白を受け入れ、少女とヴィドックの結婚を祝福する。こうしてりっぱに更生した元犯罪者は健気な心の少女と結ばれるのであった。ヴィドックは自らの犯罪経験を生かして捜査に辣腕を振い、二冊の回顧録を残した。(完)

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