『弘高青春物語』(1992年製作、2003年劇場公開)こそは鈴木清順の起点にして全てである。ここには清順のあらゆるモチーフが集結しており、しかもそれらはいっさい妥協のない簡潔さで編集されている。たとえば津軽三味線と門付け、八甲田山と弘前の桜、ねぷた、(『花と怒涛』『河内カルメン』『陽炎座』などにおける重要なモチーフであるところの)傘、炎を前にした若者たちの踊り(『春婦傳』のラストシーン参照)、港での別れ(『港の乾杯』『浮草の宿』『花と怒涛』などを参照)、大正期の高校生たちの粋(『悪太郎』と『けんかえれじい』の原型)、幽霊、そして戦争の刻印。それだけではない。清順流の由緒正しき音楽の使用法に心打たれる。
この作品における玉川伊佐男と野川由美子には懐古的なところが皆無であり、まったく新たな形象として登場する。清順日活時代におけるふたりの姿を知った上で本作を見る者は、おそらくノスタルジックな感情を抱かざるを得ないのであろうけれども、ふたりはそんなことを通り越して、これだけで完結した確固たるイメージとして出現する。ふたりの出現は、何度見ても新しい。
清順のオリジナルビデオ『春桜 ジャパネスク』(83年)はDVD化されレンタルでの視聴も可能である。『弘高青春物語』は清順のあらゆるモチーフを集成したものであるとともに、完成された編集手法を学ぶことができる作品だから、ぜひともDVD化して多くの人の鑑賞に供されるべきである。