検閲の、学術に対する「寄与」

「ユートピアを求めて――ポスターに見るロシア・アヴァンギャルドとソヴィエト・モダニズム」展(神奈川県立近代美術館葉山)は、松本瑠樹氏個人のコレクションによって構成されている。その内容の充実と保存状態の良好さについてはすでに触れた。さらにその学術的価値について、本展のカタログに収録されている籾山昌夫氏の論文「グラヴリートの検閲番号等から特定されるポスター発行時期とその考察――旧ソヴィエト連邦における宣伝印刷物の文化学的研究の一端緒――」が言及している。興味深い内容なので紹介したい。

「グラヴリート」というのは1922年に設置されたソ連邦教育人民委員部・文学出版事業管理総局の略称である。当時のソ連で映画の製作・輸入・配給・上映は国家の独占事業であり、映画のポスターも書籍などと同様、グラヴリートの検閲下にあった。検閲済の素材には番号が記載されており、これがポスターの発行年次を絞り込むのに役立つのである。映画のポスターである以上、発行年は映画の公開年に近いけれども、同じ映画に複数のポスターがあったり(制作者が異なることもある)、重版・増刷が行なわれたりする場合がある(異なる上映地域あるいは時期のためであろう)。増刷の場合にも検閲番号は更新されるので、現存するポスターに残るグラヴリート番号は、その資料がいつ制作されたかをより正確に推定する手がかりになる。松本コレクションには、この番号が記載された周縁部をトリミングせずに残しているものが多数含まれている。

籾山氏の論文には、本展で公開された作品中、検閲番号等の記載を持つものの一部が例示されている。図版の当該作品を見てみると、たしかにその番号を確認できる。カタログには周縁部までを記録した全図版が収録されているので、それらを比較するとトリミングの有無は一目瞭然である。なお籾山氏によれば、松本氏の額装の指示は周縁部の文字が見えるように配慮していると言う。

わたしはこの論文を読んではじめてグラヴリート番号の存在を知った。図版を通してそれを見ることもできるが、あらためて会場で確認してみたい気分になっている。これから葉山にお出でになるかたは、あらかじめ籾山論文をお読みになり(ベンチに図録の見本が置いてある)、ポスターの現物でグラヴリート番号を確認されると興味深いかもしれない。

 

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